グランドトラインは幸運だけじゃない?〜「水に流せない」怒り

占星術の特別なアスペクト「グランドトライン」。古い教科書では「幸運な配置」「恵まれた才能」と書かれていることが多いかもしれません。しかし、どのようなアスペクトも光と影の両面を持ち、長所として表出することもあれば、短所や過酷な体験として表れることもあります。

今回は、強烈な個性を放った実在の人物のホロスコープを通して、アスペクトの深層を読み解いていきましょう。

過酷なニューギニア戦線からの生き残り

太平洋戦争時、過酷なニューギニアの戦場から生き残り、戦後何十年経っても「怒り」を手放さなかった人、奥崎謙三氏を取り上げます。

戦後、殺人や天皇へのパチンコ玉発砲事件などを起こし、ドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』でその生き様を世に知らしめた人物です。映画では、ニューギニアで戦死した友人がなぜ死んだのか、その真相を確かめるため当時の上官や部隊の関係者を訪ね歩く姿が記録されています。さらにクランクイン後には部隊長の息子に発砲し、殺人未遂で服役するなど、まさに波乱に満ちた生涯を送りました。

彼が抱え続けた強烈なエネルギーは、どのような配置としてホロスコープに表れているのでしょうか。

裏切られた理想〜 太陽・水星と海王星・木星

基本的に出生図を読みます。まず土台になっているのは、太陽と水星が水瓶座にあります。水瓶座らしい理想主義。「自分は大きな世界とつながっていて、世界を大きく変えていく」という意識を持ちやすい配置です。

そこにオポジションを組むのが、獅子座にある海王星。この世代は「王様やヒーローに憧れを持つ世代」でもあります。戦時中であれば、天皇はまさにその「王様」だったでしょう。さらに木星と海王星が重なる「理想主義の極地」とも言える配置も絡んでいて、これは何かを「これは素晴らしい」と信じ込んだら、疑うことなく人生すべてを賭けてしまうような力を持ちます。

しかし、信じていた「父的な存在」に裏切られたとき、どうなるでしょうか。海王星は高いビジョンを与える一方で、現実を曖昧にし、「幻滅」や「裏切り」をもたらす象徴でもあります。梯子を外された人間は、強い無力感に苛まれるか、落胆からの激しい怒りへと向かいます。奥崎氏の場合は、後者の道を選んだのでしょう。

終わらない緊張と恐怖 〜 冥王星と海王星

過酷な戦場体験は、心身に消えない傷を残します。身体の感覚で例えるなら、緊張や恐怖を司る「交感神経のスイッチ」が冥王星であり、現実逃避や弛緩を司る「副交感神経のスイッチ」が海王星と言えます。

彼の中では、冥王星という死の恐怖のスイッチが入りっぱなしだったのではないでしょうか。冥王星は死の恐怖。恐怖を感じ続けると、体も心も固まって、視野が狭くなっていく。恐怖そのものを感じなくする「現実逃避」を選ぶか。恐怖そのものを打ち消すために攻撃へと向かうか。どちらかに向かわざるを得ない。奥崎氏はおそらく、その両方を、生涯を通して行ったり来たりしていた人だったのだと思います。

蠍座の火星と、終わらない「水のグランドトライン」

奥崎氏の怒りの火星は、蠍座の1度。蠍座らしい「絶対に諦めない、ねちっこい怒り」がそのまま出ているような度数です。そしてこの火星は、天王星・冥王星とグランドトラインを組んでいます。感情の「水」のグランドトライン。つまり、感情がブレーキなく循環し続ける配置です。

グランドトラインは一般に「才能」「調和」と語られることが多いのですが、水のグランドトラインが絡む感情は少し違う顔を見せることがあります。一度スイッチが入ると、その感情がぐるぐると回り続けて、終わりが来ない。その感情に憑依されてしまうような強さを持つのです。

奥崎謙三の戦後の執拗な行動を知って私はびっくりしました。奥崎氏の戦後の執拗な行動には、この「水のグランドトライン」の影が見隠れします。何十年経っても死んだ戦友たちを忘れずに部隊の中で無念にも殺された戦友の真相究明に相手を探しにいく姿勢。恨みを「絶対に消えさせてはいけない」と自分に課し続けたあの姿勢。グランドトラインの性質により、感情を「手放す」という選択肢が存在せず、文字通り「水に流す」ことができなかったのです。

当然、自分自身の感情の渦の中にいるため、周りが見えません。相手はもう戦争の傷は忘れて、日々一市民として生活している状態です。過去を葬り去り生きている人たちに過去のこと、しかもトラウマの体験を思い出させる人が来たら、脅威であり大迷惑です。奥野氏の行為は1番触れたくない傷を、引っ掻き回すことになります。

ただし、このグランドトラインはただ破壊的な方向にだけ働いたわけではないと感じました。引揚船で食糧の横領を疑い、船長を脅して刺したそうですが、このおかげで船で食糧を増えたそうで、周囲から喝采を浴びたといいます。冥王星が蟹座にある世代、弱い立場の人の面倒をみようとする強い価値が動いてもいたようです。。蟹座冥王星が持つ「身内や弱い立場の人を守ろうとする強い防衛本能」が、天王星の反抗心を経て、蠍座火星の闘争行動として現実で示された瞬間といえます。

神への反抗と生贄の意識 〜 魚座の天王星

もう一つ詳しく考えておきたいのは魚座の天王星です。魚座は自我が溶け大いなるものとつながるサイン。それを言い換えれば「生贄になるサイン」とも言われます。神様の言いなりになり、自我を差し出すような感覚が魚座にあると思います。だから自分を捨てて誰かを助けることが躊躇なくできたりする。その姿勢は言い方を変えれば「犠牲」という言葉にもなります。

けれど、魚座に天王星があることで、神への反抗が生まれるのではと思います。自我をさしだす姿勢にノーという。でもそこで人間の情動としては、自分だけ助かった罪悪感というのも強く出てくるでしょう。奥崎氏の仲間を失った罪悪感、冥王星の強烈な仲間意識、それによって怒りと行動で攻撃的になる。天王星、火星、冥王星の複雑な情動のつながりがここに示されています。ウラノス(天王星)・マルス(火星)・ハーデス(冥王星)の神の元型が動き出すと、自我はこの元型に乗っ取られてしまい、この動きにブレーキをかけることが困難だったのではないかと思います。

怒りは、時に「正気」を守るための杖になる

これほどまでに深い心の傷は、簡単に癒やせるものではありません。自分自身が負った酷い傷跡を見つめること自体が、あまりに痛ましいからです。

奥崎謙三という人を、ただの「暴力的な人物」として見ることもできますし、「国家の戦争責任を最後まで問い続けた告発者」として見ることもできます。どちらも正しいのだと思います。

彼自身、こう書き残しています。

「その激しい感情を持続することによって、私は自己の精神が正気に近いことを確認することができ……」正気でいるために他の人がないものにしてしまった「怒り・恨み・反抗。恐怖」に向き合い続けた。並大抵の精神では生きれなかったはずです。

天皇が犯罪者として扱われることなく、戦後は敬われている世の中になったけど、奥崎氏は、「みんな目覚ませ!騙されるんじゃないぞ!」と訴えていたように感じます。私たちの先祖(私は祖父世代)の多くはこんな傷だらけだったのだと薄々感じるようになったのはだいぶ大人になってからです。

日本人の集合無意識に、深い傷跡があり今もそれは癒えぬまま私たちに受け継がれている・・戦後80年経った今も忘れてはいけない事実なのだと思います。


自分の中の星のエネルギーと向き合うために

星が持つ強いエネルギーやグランドトラインの循環は、使い方によって自分を縛る鎖にもなれば、突き抜けるための原動力にもなります。もし、ご自身のホロスコープにある配置の読み解き方や、湧き上がる感情との付き合い方に悩まれている方は、ぜひセッションでお話ししてみませんか。

あなたの中にある星たちの物語を、一緒に紐解いていきましょう。

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