小学1年生のとき、私は作文を自分で捨てました。雪の朝の情景を書いた作文でした。窓の外の白い世界を見ながら、私はある一言のセリフをお母さんに言わせる文章を書きました。事実ではないけれど、そのセリフがあることでその世界がずっと美しくなると思ったのです。
でもその作文をお母さんに見せた時、言われたのです。「嘘を書いちゃダメでしょ」と。
胸の中で何かが、すっと冷えた感覚がありました。「私はダメなことをした」という気持ちが、あっという間に広がった。
その後、意に反して先生にその作文を褒められました。全校の広報誌に掲載されるかもしれない、と言われた時、私は恐怖を感じました。嘘の入った作文がみんなに広がったら、お母さんに怒られる。その恐怖で頭がいっぱいになった私は、自分の作文を、自分の手で捨てたのです。
お母さんが悪いわけではありません。大人としては当然の言葉だったと思います。でもあの瞬間、小さな私の中に「正しくなければいけない」という信念が、静かに、深く刻まれた。さらに広報誌に載る恐怖によって「自分の作ったものが注目されたら恐ろしいことになる」という信念も刻まれました。
思い返せば「自分は中心で目立ってはいけない」という声と闘ってきたように思います。
その声は本当に「私」なのでしょうか。今日はそのことを、一緒に考えてみたいと思います。
土星という元型とは
ユング心理学では、惑星は単なる天体ではなく、人類が太古から共有してきた心のパターン=元を象徴していると考えます。土星は厳しいおじいさんみたいなかんじですね。誰の心の中にも厳しいおじいさんみたいな人が住んでいる。
占星術を学んでいると、土星はよく「試練の星」「制限の星」と言われます。トランジットで土星が重なる時期は「しんどい時期」として語られることも多い。土星は、「規律」「責任」「現実」「時間」「制限」などを示します。社会のルールや規範を内側に取り込もうとする、心の働きそのものです。
土星には光の側面もあります。時間をかけて努力できる、長期的な視点、本物を見極める力。土星のエネルギーをうまく使えている時、人は地に足のついた、責任感ある深みのある生き方ができます。
でも土星には、影の側面もある。「足りない」ことを前提にしていますから「お前はダメだ」を言ってるようなエネルギーなのです。さらに「ちゃんとしなければならない」「決まりを守らねばならない」「正しくしなくてはいけない」・・もう息がつまりそう・・。
そういう声として、内側から響いてくる土星。その声が適切な緊張感として働いている間はいい。でも、その声が止まらなくなった時。自分を責め続けることがやめられなくなった時。喜びや表現を「意味ないもの」として遠ざけるようになった時。
それが、土星の元型に憑依されている状態です。「憑依」という言葉は少し強く聞こえるかもしれませんが、元型に憑依されている時は自我が乗っ取られてしまうから、本当に気付けないのです。
心の中にいる複数の声
あなたの心の中に、こんな声は響くことはありませんか?
「またミスした。なんでこんなこともできないんだろう」と責める声。「そんなに自分を責めないで」となだめる声。「もういっそ全部やめてしまいたい」と叫ぶ声。「ダメダメ、そんなこと考えちゃいけない」と打ち消す声。
一人の人間の中に、こんなにたくさんの声がいる。
これは心がおかしいわけでも、意志が弱いわけでもありません。人間の心というのは元々、複数の声が同居しているものなのです。その中でも、土星の元型に憑依された声は特徴的です。とても権威があるように聞こえる。「ちゃんとしなさい」「それは間違っている」「もっと頑張らなければ」「あなたはまだ足りない」
この声は、幼い頃に外側から入ってきたものです。親の言葉、先生の評価、社会のルール。それがいつの間にか内側に住み着いて、まるで「自分自身の声」のように聞こえるようになった。
あの作文を捨てた日の私がそうでした。お母さんの「嘘を書いちゃダメ」という言葉はまさに「土星」です。さらに作文がみんなに広がってしまったら怒られるという恐怖や恥。「知られることは怖い」「褒められることは怖い」という信念になってしまった。
でも、その声は「私(自我)」ではありません。これがとても大事なことです。
土星の声が響いている時、私たちはその声と自分を同一視してしまいます。「私がそう思っている」と感じる。だから反論できない。だから逃げられない。でも少し立ち止まって、こう問いかけてみてほしいのです。
「今責めているのは、本当に私? それとも、私の中に住んでいる誰かの声?」
この問いを持てた瞬間、何かが少し変わります。声と自分の間に、わずかな隙間が生まれる。その隙間こそが、憑依から抜け出す入口です。
元型を意識すると何が変わるか
「土星の元型に憑依されている」と気づくことは、土星を否定することではありません。土星のエネルギーそのものは、本来とても大切なものです。誠実さ、責任感、物事を深く見る目。それは人生を支える力になる。問題は、土星の声が「私(自我)」を乗っ取ってしまうことです。
占星術のホロスコープには、その人の土星がどこにあるかが示されています。そしてその土星が他の惑星とどのような関係になっているかで、特に土星が響きやすいタイプというのもわかってきます。これを知ることで、「私はダメだ」で責め続けるのではなく、「ああ、今土星が動いているな」と、少し距離を置いて見ることができるようになります。
占星術では知性という観点でこのことを理解できますが、それがわかっても土星が強く動いている場合は、夢解きや箱庭表現セラピーで、自分の無意識を掘り下げていくことをお勧めします。私のように原因の一つの「過去の出来事で起こった心の動き」がはっきりし、理解できるようになります。
これが憑依されない、ということの本質だと私は思っています。土星の声を消すことではない。その声が「私」ではなく「土星という元型のエネルギー」だと知ること。そしてその声を観察できる、もう一人の自分に気づくこと。
あなたの土星は、今この瞬間どのようなことを囁いていますか?
・・・でも多くの場合、自分では気づきにくい。
私自身、夢分析を3年受け、占星術を長年学んできて、ようやくあの作文の記憶に辿り着きました。小学1年生の私が捨てた作文のことを、ちゃんと思い出せたのはほんとに最近の話なのです。
心理占星術セッションでは、まずはあなたのホロスコープを一緒に読みながら、土星がどこにいるか、どんな声として現れているかを紐解いていきます。
「なぜいつも自分を責めてしまうのか」「なぜ表現することが怖いのか」「なぜ頑張っても頑張っても足りない気がするのか」
そういう繰り返すパターンの奥に、必ず元型のエネルギーが動いています。それを言葉にして、意識の光の当たる場所に出してあげること。それだけで、責める声との関係が変わっていきます。
土星の声に飲み込まれるのではなく、土星のエネルギーを自分の力として使えるようになること。それが心理占星術セッションで目指していることのひとつです。個人セッションはこちらからどうぞ。


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