あなたのホロスコープの中に、「カイロン(キロン)」という小惑星があります。惑星ほど語られることは少ないけれど、心理占星術の世界では魂の傷を示す、とても重要な天体です。2026年にカイロンは発見時の牡牛座に入りました。
ユング心理学から考える「カイロン(キロン )傷つく癒し人」の元型について考えてみたいと思います。
カイロン(キロン)とはどんな天体?
カイロンは1977年、パロマー天文台で発見された小惑星です。土星と天王星の間を回っているというのがポイントで、土星(見える・固定された苦しみの世界)と天王星(見えないけれど影響の強い新しい力の世界)の橋渡しをする存在です。
神話のカイロン〜傷ついたヒーラーの物語
ギリシア神話のカイロンは、ケンタウロス族と似た存在です。頭が人間で下半身が馬の種族ですが、暴れん坊だった他のケンタウロスとは異なり、カイロンはクロノスの息子(ゼウスの異母兄弟)であり、非常に賢く心の優しい賢者です。薬草の知識で人々を癒し、アキレウスやアスクレピオスなど多くの英雄たちを育てた教育者でもあります。
でもカイロンの物語は、生まれた瞬間から悲しい物語が始まります。
カイロンの母親はオケアノスの娘フィリュラ。クロノスが馬の姿に変身してフィリュラのもとを訪れ、カイロンが生まれました。生まれてきたカイロンは上半身が人間、下半身が馬(後ろ足だけが馬)という姿でした。その姿を見たフィリュラは激しく嘆き、「こんな子を産むくらいなら、人間でなくなりたい」と神々に祈り、菩提樹の木に変わってしまったと伝えられています。
母親に、存在そのものを拒絶された。それがカイロンの最初の傷です。自分は何も悪くない。ただそこに生まれてきただけなのに、理不尽に存在を否定される傷。これがカイロンの神話の底に流れているテーマです。初期の養育者に、肉体を否定されることは、その後の人生において「自分が自分でいていい安全な感覚」を無意識に脅かしアイデンティティの混乱も引き起こします。
それでもカイロンは、アポロンとアルテミスに養育され、ペーリオン山の洞窟で育ち、医術・音楽・弓術・哲学・薬草を学び、多くの英雄の師となりました。文武両道とはこの人のことですね。母に捨てられた子が、誰よりも人を育てる教師となったのです。
そしてあるケンタウロス族の争いに巻き込まれた時に、育てたヘラクレスが放った毒矢が、誤ってカイロンに当たってしまいます。自分は何も悪くないのに、理不尽な傷を負ってしまいます。
しかもカイロンは不死身だったため、死ぬこともできずに苦しみ続けました。カイロンは肉体的な「痛み」もキーワードです。痛みをかかえたまま生きることも死ぬこともできない。
さらにカイロンの傷は、大切な特徴があります。それは自分のせいではないのに、負った傷だということ。ケンタウロス族の大事にしていたお酒を、勇者ヘラクレスが強引に開けさせ、その香りでケンタウロス族が怒り、お酒を巡っての大喧嘩。ヘラクレスは屈強な英雄ですから、ケンタウロス族を弓矢で倒していきます。ケンタウロス族がカイロンの元へ逃げ込み、その騒ぎの中でヘラクレスの毒のついた矢が誤ってカイロンの足に刺さってしまった・・・という状況だったのです。諸説ありますが、カイロンは戦いをやめさせようとしていたという話もあります。
自分は何も関わっていなくでも、同族の中にある「怒り(大事なお酒を開けられての怒り)」によって周り回って自分の攻撃としてやってくる。これはカイロンだけではなく今を生きる私たちも体験しうることでもあります。
私の場合「生まれ落ちた家系への怒り」が凄まじくあるのに、それを抑圧する家系でした。このことは自分の夢分析をしてみてやっと認識できました。先祖の昇華しきれていない情動と自分は無関係ではない、無意識でいたら、むしろそれが強化されやすいと体験から感じています。
関連記事→夢分析と占星術で紐解かれた「家系の怒り」
見えない痛みは情動を通して訴えかけてくる
家系の中で無意識に受け取ったものはわかりにくく、生まれた時から当たり前のものとして体や心に無意識に染み込んでしまっているため、この傷はなかなか「自分で気づく」ことが難しい。親の代でも治せなかった傷がまだ傷口をあけたまま受け渡されてしまいます。
また傷つきの気持ちは複雑な感情も引き起こします。誰かに傷つくことをされたとき「なんで私がこんな目に遭わなくてはいけないの!」という怒りもでてくるでしょう。相手に対して恨みの感情もでてくるでしょう。さらには自分が悪いのかもしれないという罪悪感になってきてしまうかもしれません。私は悪い子だという間違った思い込みにつながっていきます。
今もしあなたが、原因のわからない不安や空虚感を感じているなら、何重にも重なった一つ一つの感情をより分ける作業をして、忘れている「痛み」に気づくことが必要になってきます。これらの痛みは、私たち全員の心の中のどこかにある傷でもあります。
カイロンの場合も、ヘラクレスに矢を射られただけでなく、最初に母親から切り離されたこと。そして自分の肉体が人間でもなくケンタウロス族でもない曖昧なアイデンティティであること。これらがカイロンの傷でもあります。
夢解きでわかる「傷つく癒し人」の元型
傷は、あまり見たくないものですよね。自分が惨めだったこと、悲しかったこと、ショックだったこと・・そういう苦い記憶を呼び起こすから。だから人はいつの間にか、傷ついていたこと自体を忘れて現実の仕事や生活に没頭していきます。いや傷を見たくないから没頭すると言っていいのかもしれません。
でも無意識の奥に押しやられた「傷ついた存在」は、静かに、でも確かに訴え続けています。特にカイロンリターン(出生のカイロンにトランジットのカイロンが戻ってくる51歳前後)の頃はその過去の痛みを思い出すようなこともでてくることもあるでしょう。すでに大人になっている自分だからこそ、過去の傷ついた子供だった私をもう1度出会い直す時期なのです。
体や心の不調。なぜかうまくいかない人間関係。繰り返す同じパターン。現実生活で起きるさまざまな問題・・・それらは、ずっと昔に忘れてしまった傷が「そろそろ見てもらえますか」と合図を送ってきているタイミングなのです。
「癒し」とは、心の中の治癒力を高めること
癒しというと、誰かからヒーリングを受けるイメージを持つ方も多いかもしれません。でもユング心理学では少し違う考え方をします。「誰かに癒してもらう」のではなく、自分の無意識の中にある癒し元型を回復させ、自己治癒能力を高めていくことです。
夢分析を3年間受けたことからこのことは体験として腑に落ちています。分析を受ける前は「ユング派の心理療法」というすごい技法があるのだと思っていました。でもだんだんわかってきたことがあります。
心理療法家の心の中には、訓練によって無意識の感情の動き方を熟知し、さまざまな元型が意識的に使える状態で存在しているのだと思います。その中でも「癒し人の元型」が活発に働いていると思われます。(元型は表裏一体なのでこの反対の「傷ついた元型」も活性しているのが最重要事項。これなしでは治療は進まない)
そして心理療法家が自分の「心」を提供して、無意識レベルでクライアントさんの無意識と化学反応を起こして「クライアントさんの癒し元型」を呼び覚ます。化学反応は投影や逆投影といわれる感情の化学反応です。これがユング派の心理療法で目指しているものなのだと私は認識しています。
深層心理ではすべての人がつながっていますから、夢分析を受けている側にも、癒し元型が動き出すのです。
私の夢に現れた「ヒーラー」
実際に、夢分析中に、何度か「右肘の傷」がでてきました。最初は隣に座った女性に肘を握られてその後に「刺青」ができてたという夢。そこから右肘に絆創膏がはってあるのでだが、絆創膏の小さな空気穴から血が吹き出していて、それをペラッとめくる夢。また分析家の姿を借りた人も、右腕をそっとさすってくれた夢を見たことがあります。なんで右肘ばかり・・?と謎でした。
夢分析も3年目になった頃、今度は蜂に右肘を刺されるという夢をみたのですが、ここで記憶が蘇りました。実際に蜂に刺されたことがあったのです!
中学2年のとき、洗った洗濯物の体操着の中にいた蜂に、右肘を刺されたことがあるのです。朝バスケ部の練習の部活に出る時だったと思うのですが、とにかく痛かった・・としか記憶にありません。
中学2年というと、私もいろいろと家庭内であった時期です。反抗期でもあったし親への怒りも抱えていたし・・・中学校2年の時の痛みがまだ無意識ではうずいていたことに驚きました。
夢分析の過程で私の中でも無意識のレベルで、ありがたいことに、癒し元型が動き出していたのだと思います。元型を動かした人と無意識でつながると、それは伝播するようですね。不思議なことですが。
傷がわからないと、ヒーリングできない
誰の心の中にも、ヒーラーは住んでいます。でも、傷がどこにあるかわからないと、ヒーリングはできません。
傷があまりに大きいとき、そのショックを受けた部分が心から分離してしまいます。分離することで、生き残るための安全が保たれるからです。でも隠された傷は手当てもされないまま放置され、痛みを訴え続けます。でも傷を見るのが怖い・・・。もちろんその傷が深すぎる人は専門家の治療が必要となります。
そこまでの傷ではないけど、誰でもがどこかで悲しく寂しく辛い思いはしています。そんな方のための夢解きセラピーや箱庭表現セラピーです。このセラピーは傷をいきなりはっきり見る方法ではありません。このセラピーの最初の段階での目的はその傷を受け入れられるだけの、心の安心感を取り戻すことです。不思議なもので心の中の安心感は養われていくのです。それはもう1度「何をやっても許される見守られる安心感」を何度も感じていくことで心に中の「安心していい」エリアが広がるようなのです。
そのあとも、何かを癒そうと頑張るのではなく、掘り返すのでもなくただ、「そうか、あそこで傷ついていたんだね」と気づいてあげる。それが、あなたの中の眠っているヒーラーを、目覚めさせていく最初の一歩です。
そしてカイロンは教師でもありましたから、この傷の癒しの経験から「内なる教師」元型も活発になってくるでしょう。そしてその内面の教師は自分の人生の道筋も照らしてくれるのです。
カイロンは何を癒そうとしているのか
カイロンは、傷を認識したからこそ深く他者を理解できるという点にあります。
自分が痛みを知っているから、痛んでいる人の気持ちがわかる。自分が迷子になったことがあるから、迷子の人に寄り添える。母に捨てられた体験があるからこそ、誰かの孤独に深く寄り添える。傷を否定するのでなく、直視し、受け入れ、意味を見出していくこと。そしてカイロンは教師でもありますからその傷つきを通して他の人を導くことができるもの・・・そのようなものに昇華されていくと思います。
入江杏さんの「わたしからはじまる 悲しみを物語るということ」を読まれたことはあるでしょうか?詳細→「わたしからはじまる 悲しみを物語るということ」Amazon入江さんは妹さん一家が殺害された被害者遺族です。妹さん一家は、恨まれたりトラブルがまったくなかったからこそ、犯人もまだ捕まっていない。事件後は沈黙をされてきたのですが、入江さんは悲しみを言葉にして語り続けることを選ばれました。自分が痛みを知っているから、痛んでいる人の気持ちがわかる。入江さんが悲しみの当事者として多くの人に寄り添う活動をされているのも、「傷を見つめ物語ることで傷を癒し、世の中の人に伝えていく」という生き方が、まさにカイロンの生き方だと感じます。
夢解き・心理占星術・箱庭表現セラピーは、無意識の中に眠るカイロンが受けたような傷に光を当てていく作業でもあります。特に箱庭表現セラピーをお勧めします。箱庭表現セラピーは無意識を解きほぐし、新しく人生の物語を生み出せる庭なのです。
関連記事→占星術で詳しくカイロンについて深掘りしています。カイロン発見ホロスコープから考える〜傷ついたヒーラーの意味
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